東京高等裁判所 昭和27年(行ナ)7号 判決
特許庁の送付にかかる審判記録中の本件実用新案登録願及び昭和二十六年五月十四日付の訂正説明書の記載によれば、原告出願の実用新案の考案の要旨は、「尾錠主体と帯金との枢着部の間に設けた、同軸によつて自在に揺動する傾動金具上に、護謨材を嵌着し、該護謨材と主体裏面との対向する部分に、少許の間隙を設けた尾錠において、護謨材の上面に帯の挿入方向に漸次に高くなるような傾斜を有せしめ、かつ、この上面に帯の挿入方向と直角に条線を設けた構造を要旨とし、上記護謨材によつて、プラスチツクその他の損傷し易い帯体を挿入緊締しても、帯体に損傷を与えず、その条線及び前述の傾斜した構造により、帯の微辷動を確実に阻止する点で効果あらしめるもの。」と認めることができる。
右記録中審決書の記載によれば、審決は、拒絶査定に引用された昭和十二年実用新案出願公告第一五七四八号公報(乙第二号証)の記載を引用し、原告の出願の考案は、該公報に記載されたものと類似であるとし、また大正十四年実用新案出願公告第一三四一六号公報(乙第一号証)の記録を参照例として引用し、原告出願の考案における前述の条線及び傾斜の構造のものは、原告の出願前既に普通に知られているものとしている。
よつてその成立に争のない乙第二号証によれば、審決に引用された記載例は、昭和十二年十月二十六日に公告されたものであつて、該実用新案は、<省略>状尾錠枠内に圧止金具を枢着して尾錠枠の上板と圧止金具との間に帯皮を圧止するようにした圧止尾錠において、圧止金具に護謨嵌入溝を設け、これに嵌入溝の縁より上方に突出せしめて護謨版を嵌着せしめた構造を要旨とし、護謨版の柔軟性と弾力性とによりバンドの損傷を防ぎかつ、使用中バンドに緩みの生ずることがない効果があることを記載している。
またその成立に争のない乙第一号証によれば、審決に引用された参照例は、大正十四年五月十四日に公告されたものであつて、その説明書及び図面により、該実用新案は、座金の周辺の一部を裏面に折り曲げ、その一部に支持せしめた支軸に嵌め入れた起状片に直角をなすように方形の圧止金具を枢着させ、該庄止金具は、その上面を座金の裏面の形状に適合するよう中央を高くして弧状となし、かつその上面にバンドの挿入方面に漸次高くなるような傾斜を与え、これに右の方向に直角に数条の条線を設けた構造を有し、これによつてバンドを不断緊く締めておくことができるような効果のあらしめるものであることが認められる。
よつて原告の出願にかかる実用新案が果たして新規性を有しないかどうかを検討すると、先ず原告の考案と、前記乙第二号証の公報に記載された考案とは、ともに尾錠主体に護謨片を嵌着したバンド圧止金具とバンド取付金具とを枢着し、主体裏面と護謨片との間に少許の間隙を設けた構造の尾錠である点で一致し、さらに護謨片の柔軟性と弾力性とを利用してバンドの損傷を防ぎ、かつ摩擦力を増大せしめた作用効果においても均等である。ただ原告の考案は、更に右の構造の尾錠の護謨片の上面にバンドの挿入方向に漸次高くなるような傾斜を有せしめ、かつ、その上面にバンドの挿入方向と直角の条線を有することであるが、尾錠の圧止金具の上面を右のように傾斜させ、かつこれに条線を設けることは、前記乙第一号証の公報の記載によつても明らかなように既に普通に知られているところである。尤も右乙第一号証の公報に記載された条線及び傾斜は特に護謨のような弾性圧止片に設けたものではないが、前記のように護謨製圧止片がすでに公報に記載され、圧止片を護謨製とした点における作用効果がこれに附記されている以上、原告の考案は、該圧止片に既知の形状即ち前記傾斜及び条線を与えたものに外ならず、この点だけにおける両者の作用効果の差異も、ただその弾性の有無に基くものであるから、結局構造、作用、効果の何れの点においても、何等新規なものを附加したものと認めることはできない。すなわち原告の出願の考案と乙第二号証の公報に記載されたものとの差異は従来普通に知られた程度のものであつて、その効果作用においても特殊の差異が認められない。原告の出願は、実用新案法第三条第二号の規定により、同法第一条の要件を具備しないものとして、その登録は拒絶されなければならない。
原告は、審決は、原告の考案と引用の公報記載の考案との内質的構造の相違に考慮を払わず、両者の実用的作用効果の絶大な相違を顧慮せず、実用新案法第一条の解釈を誤まつたものである、と主張しているが、審決の説示しているところも、結局当裁判所が以上において判示しているところと異らず、審決に原告の指摘するような違法があるとは解されない。